2014・7・29 日本経済新聞コラム スポートピア 「一度来てもらうには」 木村正明(J2岡山代表)

 サッカーファンをコア層、ライト層という言葉で階層分けすることがある。このあいまいな言葉であるライト層をファジアーノ岡山では4つに分けてとらえている。

 熱心な順に並べると①年に1度はスタジアムで観戦する②特別な試合があれば足を運ぶ(昨季のJ2ならG大阪戦)③過去に1度だけスタジアムに行ったことがある④テレビで見たことがある  となる。さらに⑤として、無関心層がいる。

 感覚的な分析にすぎないが、約195万人の岡山県民のうち、①が5万人、②が10万人、③が20万人、④が70万人、⑤が90万人ではないかとみている。年間チケットを持っている。ファンの核となるコア層はまだ3000人にすぎない。

 スポーツビジネスに携わっている者としては当然、このそれぞれの層に向けてアプローチする仕組みをつくっていかなくてはならない。何か施策を打つときは、どの層に向けたものであるかを明確にする必要がある。

 ファジアーノでは試合を告知するビラ配りを全スタッフで行っているが、それは⑤の無関心層を④に、また④の層を③に引き上げる可能性があると考えている。子どものサッカー教室を開いたり、町の祭りやイベントに参加するのも同様の狙いがある。

 マーケティング戦略としては、「awareness(名前を知ってもらう)」「action(一度、スタジアムに来てもらう)」「 repeat(何度も来てもらう)」の3段階に分けた場合、actionを起こさせるのが最も難しいとされている。

 試合をテレビでしか見たことがない人を、スタジアムに呼び込むのは簡単ではない。選挙の投票に足を運ばせるより、スポーツの試合に向かわせるほうが難しいと教えられたことがある。何しろ、スポーツ観戦にはお金が掛かるのだから。

 ワールドカップ(W杯)が開催されたので「お客さんが増えるでしょう」と言われるが、そんなことはない。W杯の効果としては④のテレビで見る層が膨らむだけで③のJリーグを見に行く人はほとんど増えない。毎年、行っているJリーグの観戦者調査によると初観戦の動機がW杯だった人は1%に満たない。五輪で話題になった競技の観戦者が急に増えないのと同じことだ。

 actionの動機づけとなるのは、人の誘いや評判だといわれる。病院や飲食店や映画や学校を例にとるとわかりやすい。「あの病院はいいですよ」「あのレストランはおいしい」と言われると、「行ってみようか」となる。

 ファジアーノが駅前や県庁、市役所などで続けているビラ配りには、単に試合の告知の意味があるだけではないのかもしれない。「あいつら、毎回、よう頑張っとるわ」という評判が入場者を少しは増やすのではないかと勝手に思っている。

 確かに信頼できる知人からの口コミが一番信用できる。