サッカービジネス 東南ア沸く(上)

2014・7・9 日本経済新聞から

 バンコクから約500km、タイ東北部のブリラム市。田んぼが広がるのどかな田舎道を車で走っていると、突如、目の前に巨大なスタジアムが現れる。タイプレミアリーグの強豪、ブリラムユナイテッドのホームグラウンド「サンダーキャッスルスタジアム」だ。

 総工費5億5千万バーツ(約17億円)。収容人数は3万2600人と、民間のサッカー専用競技場としては東南アジアで最大規模。エアコンの利いた部屋で食事をとりながら観戦できるVIPルームも備える。強豪との対戦となればバンコクからもファンが集まり、8割以上の席が埋まる。市の人口2万7千人に匹敵する動員力だ。

 オーナーの元政治家、ネーウィン・チットチョーブ氏が狙うのはサッカーによる町おこし。4年前にクラブを買収し、本拠地をバンコク北部のアユタヤ県から移した。有力選手を集めてチームを強化し、昨年にはリーグ優勝のほか、アジア・チャンピオンズリーグ・ベスト8などの実績を作った。加えて、地域に貢献する独自のファンサービスにも定評がある。

 試合後、スタジアムを出たファンが向かうのは車で10分ほど離れた地元の屋台街だ。ここは選手に会えるチームの「公式食堂」。食事を取る選手と自由に写真を撮ったり、話しかけたりできる。一緒に食事もするので、屋台街の売り上げはうなぎ登りだ。

 チケット、ユニホームなどの物販、スポンサー協賛金を合わせたブリナムの収入は2013年に4億5千万バーツと、10年に比べて4倍近くに増えた。ネーウィン氏の構想はこれだけにとどまらない。サッカーをテーマにしたホテルもスタジアムに隣接して建設。今秋にはタイ初の自動車レースサーキットもオープンする。来年以降には動物園や遺跡のテーマパークを開設する計画を持つ。

 市場調査会社のレピュコムがサッカーへの関心の高さを調べた国別ランキングでは、1位のナイジェリア(83%)に次ぎ、2位はインドネシア(77%)、3位はタイ(75%)だった。東南アジア全体では6億人を超える人口のうち7割程度に当たる4億人が潜在的なサッカー市場といわれる。

 だが、人気があるのはイングランドマンチェスターユナイテッドなど欧州勢ばかりで地元のクラブは見向きもされなかった。そこに変化の兆しが見え始めている。タイプレミアリーグでは13年の入場者数は前年比12%増の166万人。今年は200万人を突破する見込みで、500万人前後のJリーグの4割の水準まで伸びてきた。

 カンボジアの首都プノンペンを本拠地とするトライアジアプノンペン。試合のハーフタイムに人気歌手のコンサートを開くなどでファン層拡大に取り組むほか、カンボジアで初となるクラブ所有のスタジアムを10億円を投じて建設する計画を持つ。収容人数は5千人で来年にも着工する。300万円で先行販売する「VIP会員権」で富裕層の取り込みを狙う。

 また、Jリーグのアルビレックス新潟が40%出資するアルビレックス新潟シンガポールシンガポールリーグに参加。カジノを併設するなど独自手法で収益を確保しつつ東南アジアに進出する。