2013.7.31 日本経済新聞 フットボールの熱源

「『自分』は自ら売り込む」

 つぶさに調べていくと海外の至るところで日本人サッカー選手が見つかる。そんな選手たちの話に耳を傾けると、そのたくましさに引かれる。

 ウズベキスタンのブハラに所属するDF柴村直弥(30)はまさに自力で道を切り開いてきた。中学時代はベンチを温めることが多かったという。にもかかわらず「いつか欧州でプレーする」という目標を立てた。

 中大卒業後はJリーグに進めなかったが、アルビレックス新潟シンガポールを踏み台にしてJ2の福岡、徳島でプレー。その後、ラトビアに渡るまでの話が柴村の人となりを表している。

 欧州に自分を売り込むには当然ながら、プレーの映像が必要と考えた。特筆すべきは、そのビデオを自分で編集したことだろう。「自分の人生を決めるものなので編集は自分でしたかった」という。J2時代に出場した全試合を録画しておき、見る者を飽きさせないため、9分余りにまとめた。

 欧州の代理人の勧めで、その映像をユーチューブにアップした結果、ラトビアのベンツピルスとの契約に至り、リーグとカップの2冠を経験した。さらにウズベキスタンの名門パフタコールに移籍。そこでは故障に泣いたが、監督に請われて加入したブハラで昨季、1部残留に貢献した。

 「夢は欧州チャンピオンズリーグの決勝でプレーすること」。臆面もなく、そう口にするところが柴村の強さだ。世の常識にとらわれず、行動の制約や限界を設けないところが、ベンチャーの起業家のようにも映る。

 トップクラスでなくとも、柴村のように国境をひょいと超え、成り上がっていこうとする選手が目に付く。代理人任せではなく、自分という商品を自ら売って歩く。日本サッカーがプロ化していなかったら、こういう選手はたぶん生まれていない。(吉田誠一)