2014・9・2 日本経済新聞コラム スポートピア 「汗をかく姿を売る」 木村正明(J2岡山代表)

 ファジアーノ岡山は年に2回、「ファクト・ミーティング」という会合で、自分たちの客観分析をしている。たとえば、スポンサー企業がなぜ支援してくれているのか、最初の拠出金はいくらだったか、企業のトップがどういうきっかけで営業スタッフに会ってくれたか、などを洗い出す。

 2013年度末時点のスポンサー企業は555社。100万円以上のスポンサーが119社あるが、先方から「支援したい」と連絡をいただいたケースはほとんどない。営業スタッフが企業に電話をしても、90%以上の確率で断られる。

 だから、まずは「地域の人々が誇りを持てるものをつくりあげたい」などの理念をしたためた手紙を企業に届ける。社長の出社時間に会社の前で待ったり、行きつけの飲み屋に詰めたりもする。ただし、すでにスポンサーになっている企業からの紹介があれば、すんなり担当者に会える。

 代表に就任したころ、こう忠告されたことがある。「あんたがサッカーの話をしても、経営者は間違いなく聞いていない。よく覚えとき」

 スポーツに関心のある経営者は多く見積もっても20%。だから、現在7人いる営業部隊には「サッカーの話は、尋ねられた場合以外はしないこと」とクギを差している。そのうえで「相手企業の業種について、経営コンサルタントになれるくらい勉強しなさい」と言い聞かせている。

 その業種が抱えている問題や将来展望について頭にたたき込み、「あの商品は他社に先駆けて開発されたものですね」という振り方をして、苦労話などを話題にする。サッカーの話はしなくても、何度か会ううちに「ところで、どうやってプロ選手を管理しているんだい」というようなことを尋ねられる。

 相手企業にファジアーノを「我が社のチーム」と思ってもらうのがゴール。最初に会社訪問してから契約に至るまでは平均で2年半は掛かる。契約後はさらに訪問する頻度を高める。社員食堂で食事しながら会話をし、ついでに「次のホームゲームは9月6日ですからね」と触れ回る。ボーリング大会など社内イベントにも参加する。

 私はスポンサー企業のトップにお会いした際に、拠出に至った動機をうかがうようにしている。もう100人以上に尋ねたが、「サッカーが好きだから」は皆無。「地域のシンボルになってほしいので応援する」は2番目で、圧倒的多数は「彼が頑張っているからねえ」である。

 「彼」とは営業スタッフのこと。ファジアーノのブランド力はまだ弱いので、スタッフが汗をかいている姿を見せ、ウエットな部分で訴えるしかない。商品を売るより、結果的に自分を売っているようなもの。これは、どの業界にも共通することなのではないだろうか。

 確かにどの業界にも共通することだと思います!